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みなそこすなどけい2

水底砂時計ni

ライオンの零くんはハチクロのリカさんなのかもしれない

俺は言った
「自分で死んじゃ駄目だ」

「原田の所へ行けなくなる」

「本当の意味で2度と会えなくなるよ」

そう言った時の
リカの瞳(め)が忘れられない

子供みたいに
きれいな瞳(め)だった
 (羽海野チカハチミツとクローバー』8巻 集英社 p.97-98)

 これはたぶんほんとうに主観的な読みだし考えなのですが、タイトルのようなことを最近思ったので、すこし書きます。


 『3月のライオン』7巻はけっこうターニングポイントというか、もしやもうこの漫画って終盤に入りつつあるかな、と思わせるなだらかな飛行の仕方にだんだんなってきた印象がある。ひなちゃんの戦いにいちおうの区切りがついて、作中にずっと張りつめていたものがすこし緩んだような感じ。その張りつめ方というのを僕が特にひしひしと感じたのはどこかというと、主人公である零くんの眼の、鬼気迫る描写だった。具体的に挙げると、5巻Chapter.51の見開きで回想される、過去の棋譜を漁っては次々に対局へ臨み、四六時中執念に駆られて将棋を指し続ける彼の眼だ。透明で、だけどどこまでも深い淵のようでこわくて、その凄みに気圧されてしまった。執念に駆られて、というのもなにか少し違って、能動的に選択したような類の没入では決してないのだと思う。苦しいけれど、その道を選ばなかったらもう死んでいるのと同じ、というくらいの後に引けない、引くところなんてない、そういう道行きなのだと思う。

 そんな零くんの眼が強烈に印象に残っていたのだけれど、同じ眼を見たことがあるってこの間ふと思い至った。『ハチミツとクローバー』のリカさんこと原田理花がその人だ。リカさんと真山の関係に大きな転機が訪れる8巻から挙げると、chapter.48の「原田くん待っていて」の独白のところとか、冒頭に引いたchapter.50の回想で夫(以下、原田さん)の事故後に自暴自棄になっている彼女に修ちゃんが言葉をかけるシーンとかもう!ね!!うわああ零くんの眼だ!ってなりましたとも。そう見え出すとどんどん2人が重なって見えてきてしまう。

 考えてみると零くんとリカさんは、まなざし以前に、なんとなく立ち位置が似ている。家族を(事故で)失っていること。その亡くなった家族がプロとして今の仕事をやっているきっかけとなる人物であること(零くんの場合は父親)。それぞれのフィールドへの禁欲的で我が身を顧みない、狂気に近いまでの没入のこと。自身を孤立無援だと思い込んでいて、しばしば内側深く沈んだ表情でいること。自分に向けられている心配や好意を、どう扱えばいいのかに迷い、しばしば拒んでしまい、でもきっぱり切り捨てたりできない不器用さのこと。
 それから、決定的な出会いのこと。
 リカさんは原田さんと出会って家族になって、その後事故で彼を失ったけれど、零くんは死別と出会いの順序が逆で、その決定的な出会いの相手というのがひなちゃんなのではないかと思うのだ。
 
 リカさんに関する回想は修ちゃん視点だから、原田さんとリカさんの本当に最初のなれそめは作中に描かれていないのだけれど、「氷の女王」なんて呼ばれて大学でどこか遠ざけられていた彼女にきっと屈託なく手を差し伸べて、すべてのこだわりを砕いたのが彼なのだろう、と想像できる。理屈の通じない、ときにずけずけと踏み込んでくる、だけどまっすぐな向日性。それってまさにひなちゃんだよなあと思う。

 というわけで、ほら。とても雑にしか話を展開できなくて申し訳ないのですが、ほら、零くんとひなちゃんはリカさんと原田さんでしょう?
 さらに言うと、零くんにもリカさんにも血縁または婚姻上の家族でない同居人と暮らしていた時期がある。香子と修ちゃん、人柄はずいぶん違って見えるけれど、それぞれ零くん/リカさんとの間に、近すぎる場所にいることがお互いを苦しめる、という類の関係を持っていた。人と人って本当にままならない…
 
 ままならないけれど、でも零くんとひなちゃんにはこれから先にまだまだ成長の余地も、時間もある。いくらでもはないけれど、たくさんある。最初から最後まで手放しで喜んでいられるような安穏とした希望を(そんなものはきっと誰にもないのだけれど)一度どうしようもなく失った彼らは、それでもどうしようもなくしがみつき、この先何度でもまた顔を上げてみるのだろう。ままならないけれど、手放しでないその希望は、はかなくてとてもまぶしい。


 とまあ半ば無理やりに照応してきたけれど、リカさんの生まれた家の家族のこととかちゃんと扱えてなくてごめんなさいという感じです。
 あと最後に、7巻収録分のすぐ次のエピソード(『ヤングアニマル』2012年7号)の零くんの眼は、以前と同じな、こわいほどの深さを湛えながらも、今までになく目の前を、外側を見据えまなざしている、透徹した瞳だなと思ったことを言い添えて、ひとまずここでこの文章を終わりにします。

ハチミツとクローバー 6 (初回限定版) [DVD]

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