みなそこすなどけい2

水底砂時計ni

リズと青い鳥、または、渡り廊下は飛び立つために

 だいぶ日が空いてしまったけど、映画『リズと青い鳥』の感想メモです。すごい映画で、一年分の集中力を2時間に注ぎ込んでしまった。

 

 冒頭の朝のシーンの足音。リズの足下の花、教室の地べたに座るフルートの下級生と椅子に座る希美たち先輩、音楽室の床にみんなで膝をついて敷くマット――本作では執拗に天と地の対比、というより〈地〉を意識させる作りになっている。さて、地面に縫いつけられていたのは誰で、縫いつけていたのは誰でしょう?

 

 本作は基本的に学校とそのほんの延長上の空間だけを描いているので、あの映画でいちばんファンタジーに聞こえるのは「北宇治」っていう校名・地名だ。「コンクール」「本番」という単語は頻繁に口にされていたけれど、「地区大会」「府大会」という語は慎重に避けられていた。「全国」も優子部長が今年の目標は全国で金だと決めましたと言及していたシーンだけ? 少女たちにとって自身の将来との時間的な距離感が不確かなのとパラレルに、空間的な遠近感も意図的にぼやかされているみたいだった。学校=鳥かごと、その外側。このふたつ以外の分け方でどうして少女たちは世界を把握できよう。

 

 『響け!ユーフォニアム』のテレビシリーズでは何度も出てきた印象的な渡り廊下が、本作ではたった一度、みぞれが音大受験を勧められたすぐあとの場面で出てくるのが象徴的。天と地の間のふたしかな場所にある細い橋は、進路を決めあぐねている彼女たちの今そのものだ。

 渡り廊下の少女たちが、べつべつの方向に飛び立つために一人で立つことを引き受けるまでの物語。

 

 吹奏楽経験者としてもみていてしにそうになった。あの日々の感触を内側からなぞっている手ざわりがまざまざと。はじめにソロを合わせてみるときのすこしずれたピッチ、夏紀がエース級に上手い希美をうらやましげにかっこいいと言う声の感じ、その希美をはるかにしのぐ高さで飛べるみぞれの演奏。希美が絞り出す「みぞれのオーボエが好き」の、彼我に絶望しているのと同じ強さで抱く最大限の敬意、その裏返しの嫉妬……

 けれど動機がなければけっして才能は陽の下で輝けない。だからやっぱり「みぞれのオーボエ」は希美がつくったものでもある。たとえ隣で同じだけの強さで輝けないとしても。

 

 あとこれはほんとに蛇足なんだけど合奏のときバスクラの位置がえらい下手側だったけどなぜだろう。ほかの低音と遠くてさびしいよう。