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みなそこすなどけい2

水底砂時計ni

伝達可能性と力の行使 ――カブトボーグ48,49話

 人造昆虫カブトボーグ V×Vの48話と49話の感想、および作品全体に言及した文章です。気が付いたらなにかよくわかんないけどまじめに書いてしまった。まあ基本的にただの考えすぎですのでその辺ご注意ください。


 まず48話「熱暴走! エンド・オブ・サマー・バケーション」。物語の進行はカブトボーグにしてはゆるやかめ。公園で水を飲むなどの無駄シーンを挟むものの、そこまで展開が跳躍しないし、最後にちゃんとオチる。宿題の終わっていないリュウセイとケンは理不尽の限りを尽くすが、(今回は珍しくちゃんと)大人であるロイドの諌めにより反省する。普段なら大抵ロイドさん(あるいはビッグバンやマダムジェニファーなどの大人たち)も一緒になって結末を投げ出しているので、これはけっこうレアだ。
 さて49話「哀しき熱帯! エンド・オブ・サマー・ホリデイ」。前回中に仄めかされた内容をちゃんと引き継いで、カツジが海外旅行に行く、その旅先でのエピソード。前回と時間軸やストーリーがまともにつながっているというのは、カブトボーグにとっては重大な文法違反である。脚本は千葉克彦で、この2話はシリーズで彼が担当するラストエピソードでもある。「お約束」を破るという作品の原則を、さらにもう一度転倒させたとき何が起こるのか。その問いを負えばこそ、この2話がシリーズの終盤に置かれたのであろう。
 カツジは旅先で現地の少女に恋をする。だが2人の間に言葉の壁が立ちはだかる。疎通したいと思うのに、身振りや仕種の取り違えから誤解を生み……
 この49話を例外として、本作では世界大会編も含め、地域を問わず大抵は通訳なしに違う国の人間同士が会話する。これは本作の特徴というより、そもそも児童向けホビーアニメのお約束と言えよう。カブトボーグではそのお約束を逆手に取り、外国人相手にも口頭による精神攻撃がすべての基本となっている。スムーズな会話がもたらすのはライバル意識や友情ではなく、心理的ダメージの意図的な与え合いなのである。伝達の可能性は、相手を言いくるめる能力があることに他ならないのだ。
 カツジが恋した少女・ヒナーノは完璧に無垢な存在として描かれる。これまでのゲストヒロインが、性格が極端に悪辣であるか、主人公たちにほとんど興味を持たれないかのどちらかがデフォルトだったのと比べると、えらい違いだ。コミュニュケーションの成立がすなわち精神攻撃の応酬に結びつく本作において、ゲストヒロインもその例に漏れないし、そうでなければ本筋に関わることを許されないからだ。対してヒナーノは、疎通したいのに外的な要因のために不可能な相手である。伝達の不可能性は、そのまま相手の落ち度の無さなのだ。
 かくして、言葉が通じないことによって初めて、カツジは自分を犠牲にヒロインを助けることが可能となった。カツジと死神とのバトルは、両者が会話可能なのにもかかわらず、ほぼ口頭での精神攻撃なしに結着を見る。*1先立つ48話においてボーグバトル=言葉の応酬が、宿題のカツアゲという私利私欲のために使われたことと、鮮やかに対照的である。他者への祈りを力の源にして収めたカツジの勝利だが、しかしその代償は自らの命だった。死神の情けにより、少女との擦れ違いを解消し、やっと通じ合たその時にこと切れる*2カツジの姿はかなしく清らかだ。カブトボーグなのに。
 カツジは劇中何度も死に、次回予告で何事もなかったかのように蘇っている。形式上は今回もその例に漏れないのだが、時系列的にカツジの死後である(はずの)47話のラストシーンでは、新学期の教室にカツジがいない。口頭で心理的ダメージを与えるという武器なしにはカブトボーグの作品世界を生き抜くことはできない。49話におけるカツジの死は、本当の死、すなわちボーガー(ボーグバトラー)としての彼の死なのだ。
 ことばを盲目的に信じることも、ことばの暴力性に無自覚であることも、どちらもおそろしい。そのどちらにも傾かず、少年達があからさまに悪意をもってことばを扱い、心理的に有利に立った上で勝つという構造のこの作品を、ことばへの無意識で安易な従属に対する強烈なアンチテーゼと読むことも、あるいは可能なのではないか。48話の最後で結局は宿題を投げ出さなかったリュウセイとケンも、ボーガーとしての過ちを犯したと言えるのかもしれない。だとしたら、2人はこの先どこへ向かうのだろうか。そういう意味で、この2話の時間軸*3に、カブトボーグ世界における1つの極点を見ずにはいられないのだ。

 残りの話の感想は全話の配信が終わって気が向いたらまたアップします。

9.14追記:話数をまちがえて表記してしまっていたので修正しました。正しくは×47,48話→○48,49話でした。

*1:死神はこの世のものではないから、異国語話者ともまた違う、越境的な存在だ。

*2:死亡したかどうか、はっきりとは描写されていない。

*3:なお当初のシリーズ構成では、この延長に残りの数話があったらしい。ニコニコ大百科より。